横顔

「逃げちゃおうか」と発したのはわたしの唇、無意識でポロリ出たそれに自分で驚き、そうして真剣に考える。このままこの子の手を引いて逃げてしまおうかと思う、このままこの子の手を引いて逃げてしまうことを考える。中卒でも2人分不自由なく食べて行ける仕…

十三

新宿三丁目に向かう車内に流れた『次は三越前』というアナウンスで、わたしたち乗客は丸の内線と銀座線の融合が本格的に始まったことを知る。 例え東京に住んでいたとしてもこの路線をよく利用していなければわからない程度の、地球規模で見ると本当に小さな…

カウントダウン

今度はいつ飽きるんだろうと思いながらひとを好きになるようになった、多分あと1回2人で会ったらわたしは満足して彼に飽きる。大教室で顔を合わせても最後のその1回は消費されない、だからわたしがこのまま彼のことを好きでい続けるためには彼と2人でもう会…

京都01

京都府立医科大学附属病院放射線部の男に会いに生まれて初めての新幹線に乗った、京都へ行くのは高校の修学旅行以来だった。東京でしか売っていないからと頼まれて買った某プロレスラーの公式グッズのパーカーを、バカ正直に買って行って渡したけど代金はも…

半券

wikiに書いてなかったから結婚してるって知らなかった、来歴と代表作のほかに配偶者のアリナシもちゃんと書いておいてくれないとこまる。雑誌に子育てコラム持ってるくらいならwikiに子持ちだって書いておいてほしい、せめてリンクにその雑誌を貼ってくれ。…

紺地と白線、鈍色

口を開けば際限なく唾液が出てきた。粘度の高いそれはしかしとてもさらっとしていて伸びがよく、そしてにおいもしなかった。白く泡立ったそれを右手の三本の指で伸ばし、掠れてくると舌を這わせて唾液を補充しながら範囲を広げた。 これが塗られている部分は…

奥野と奥村

わたしの恋人と親友の名前はとても似ている、奥野と奥村。わたしの携帯のアドレス帳には二人とも、フルネームで登録がされている。いまだにガラケーを使っているわたしのメールボックスには、奥野某からのメールと奥村某からのメールがずらりと並ぶ。 恋人が…

明大前

2005年に書いたものを少し直して、供養します。 http://bccks.jp/bcck/120001/info

ゆめの話

死んじゃった男の子の夢を見た。 その子はまだ生きていて、わたしには猫がいなかった。死んじゃった男の子は物語を越えて、わたしの夢に入ってきた。高校に入ってから出会ったはずのわたしたちはまだ中学生で、彼の髪はまだ短かった。「ねえこれ、柏木」と彼…

薄紙

彼の遺書にはわたしの名前は一度たりとも出てこなかった。それは彼にとってのわたしという存在の軽さのあらわれであって、恋人という存在の軽さのそれだと錯覚してはいけないと思った。 名前を書かれた彼の両親や兄弟、友人たちの言う「君のことを考えていな…

おしまいの日

世界の終わりの始まりを、僕は確かにその日見た。 朝4時50分、展望台から見える景色は真っ暗だった。宝石箱と呼ばれるような有名な観光地とは違う、お金のかけられなかったクリスマスツリーの電飾みたいな、そんな夜景を僕らは見ていた。 冬は朝が来るのが本…

ハッピーエンドののこりかす

久しぶりに昔好きだった人を見た。 そこそこ混んでいる居酒屋の、わたしはテーブル席にいた。彼は座敷で男3人で飲んでいて、壁には上着やコートがかけられていた。わたしの席からは彼の後姿しか見えなかったけれどそれでもすぐに彼だとわかって、学生時代で…

アンチ・ショートカット・ファンクラブ

ロングヘアで巨乳なんてのは今時古いのだと思う。 わたしの好きになる男の子はことごとくショートカットの貧乳好きで、さすがにサラシは巻けないからと髪を20センチバッサリ切った。スースーする襟足にも慣れて、でも忙しくて美容院に行けず、そろそろショー…

はじまりと、なつのはなし

「これに着替えてください」と言われて真っ白なシャツを渡された。季節は夏、制服が半袖シャツだということには何の違和感もなくて、バイト初日だし上司が言うのだし、と、わたしは埃臭い更衣室でそれに着替えた。「着替えました」と更衣室を出たわたしを見…

神奈川くんとわたし

『一人、もしくは知らない男の子と二人でプラネタリウムに行きたいな』って、朝起きたら神の啓示のようにひらめいたからわたしはそれを実行に移した。速やかに、素早く、後者の啓示を。 知らない男の子を誘うのが難しかったので、わたしは条件を緩めることを…

陶器

飲み込んでからどれくらいで嘔吐するかのタイミングを計る。もちろんすぐの方が色鮮やかだけどそれはそのものの形のままで胃液が若干混じる程度で、鮮やかなだけに何を食べたか丸わかりだから恥ずかしいし、それになによりつまらない。白く磨き上げた便器に…

蜂蜜

ハチミツが入ったカフェラテはすごく甘くて、すぐにおなかがいっぱいになる。店内は適度にざわざわしていて、わたしのねむけをうまくくすぐる。彼の声がどんどん遠くなってしまって、わたしはあくびをかみ殺す。 「聞いてる? 疲れてる?」 「ごめん平気、な…

20121206-01

アニメや小説やそういうものの感想じゃないものをかきたくなったので、ブログをつくりました。つまりはそういうことです。でもどうしようかなとまよってる。ブログサービスすごくたくさんあるし難儀。