アンチ・ショートカット・ファンクラブ

 ロングヘアで巨乳なんてのは今時古いのだと思う。

 わたしの好きになる男の子はことごとくショートカットの貧乳好きで、さすがにサラシは巻けないからと髪を20センチバッサリ切った。スースーする襟足にも慣れて、でも忙しくて美容院に行けず、そろそろショートカットと言うよりも短めのボブと呼んだ方がいいかもしれないというころ、恋人はあっさりわたしをふった。

 

 理由はわからなかったし、聞かなかった。彼はこのひとつき、「僕はもう君に興味がない」ということを全身全霊で現していて、気づかないふりももう限界だった。他に好きな人ができた・仕事が忙しい・単純に飽きた――なんであれわたしに興味がなくなったということだ。

 それさえわかれば十分だったし、目をそらしてもつむっても肌で感じる彼の熱の低下を今更言葉にして聞きたくなかった、だから「別れよう」と言われたとき、わたしは「うん」とあっさり答えた。

 

 失恋したし髪でも切るかと思ったけれど、肩に付くか付かないかの微妙な短さの髪を切ってもあまり代わり映えはしないし、なにより彼の好きだと言ったショートカットになってしまうのでどうしよう、と一人で考える。

 髪を切ったら手っ取り早く新しい自分になれる(気がする)というのはある意味事実で、わたしはあのとき彼に相応しい、新しい自分になったはずなのに何でこんなことになったのだろうとずぶずぶ思考の沼に片足を突っ込んでしまいそうになり、慌てて手元の雑誌を繰った。

 逆にエクステをつけていきなりロングにするとか? ああでも外したら結局はショートカットのわたしが現れるところがあまりに示唆的でいたたまれない。じゃあこれからロングヘアを目指す――にしても満足するまで伸びるだけの期間彼を引きずってるみたいで悲しすぎる。もしかしたらわたしはこれから、髪を短く切るたびに彼のことを、「短いのも似合ってるよ」と言ってくれた笑顔やなんかを思い出すのかな、それはあんまりにひどいことだ。

 実感したことがない「女は上書き保存」というフレーズが救いのようにわたしの頭上をグルグルグルグル回るけど、わたしには全消去も改変も追加更新もなさそうで、Ctrl+Sを連打したって変わらない現状があるばかりだ。

 

 ショートカットファンクラブを聞きながら鏡を見たら、瞼を腫らしたショートカットのわたしと目があって、わたしはこっそりため息をついた。

 

https://myspace.com/knotscream/music/song/6083004