2013-01-01から1年間の記事一覧

ゆめの話

死んじゃった男の子の夢を見た。 その子はまだ生きていて、わたしには猫がいなかった。死んじゃった男の子は物語を越えて、わたしの夢に入ってきた。高校に入ってから出会ったはずのわたしたちはまだ中学生で、彼の髪はまだ短かった。「ねえこれ、柏木」と彼…

薄紙

彼の遺書にはわたしの名前は一度たりとも出てこなかった。それは彼にとってのわたしという存在の軽さのあらわれであって、恋人という存在の軽さのそれだと錯覚してはいけないと思った。 名前を書かれた彼の両親や兄弟、友人たちの言う「君のことを考えていな…

おしまいの日

世界の終わりの始まりを、僕は確かにその日見た。 朝4時50分、展望台から見える景色は真っ暗だった。宝石箱と呼ばれるような有名な観光地とは違う、お金のかけられなかったクリスマスツリーの電飾みたいな、そんな夜景を僕らは見ていた。 冬は朝が来るのが本…

ハッピーエンドののこりかす

久しぶりに昔好きだった人を見た。 そこそこ混んでいる居酒屋の、わたしはテーブル席にいた。彼は座敷で男3人で飲んでいて、壁には上着やコートがかけられていた。わたしの席からは彼の後姿しか見えなかったけれどそれでもすぐに彼だとわかって、学生時代で…

アンチ・ショートカット・ファンクラブ

ロングヘアで巨乳なんてのは今時古いのだと思う。 わたしの好きになる男の子はことごとくショートカットの貧乳好きで、さすがにサラシは巻けないからと髪を20センチバッサリ切った。スースーする襟足にも慣れて、でも忙しくて美容院に行けず、そろそろショー…

はじまりと、なつのはなし

「これに着替えてください」と言われて真っ白なシャツを渡された。季節は夏、制服が半袖シャツだということには何の違和感もなくて、バイト初日だし上司が言うのだし、と、わたしは埃臭い更衣室でそれに着替えた。「着替えました」と更衣室を出たわたしを見…

神奈川くんとわたし

『一人、もしくは知らない男の子と二人でプラネタリウムに行きたいな』って、朝起きたら神の啓示のようにひらめいたからわたしはそれを実行に移した。速やかに、素早く、後者の啓示を。 知らない男の子を誘うのが難しかったので、わたしは条件を緩めることを…