カウントダウン

 今度はいつ飽きるんだろうと思いながらひとを好きになるようになった、多分あと1回2人で会ったらわたしは満足して彼に飽きる。大教室で顔を合わせても最後のその1回は消費されない、だからわたしがこのまま彼のことを好きでい続けるためには彼と2人でもう会わなければいい。そうすればわたしは彼のことをずっと、昨日や今日みたいにずっと、24時間恋い焦がれていられる。
 だけれどもわたしはできることなら今すぐ彼に飽きたい、2人で向かい合って座って何時間か話をして会話の端々に違和感を感じたい、さりげなく手を絡めてあわよくば抱き合ったりもしたい。そうして馴染まない不愉快な体温に、君とわたしは最初から最後までずっと他人で、一緒になんていられないって実感したい。
 このまま彼と大教室で、目線を交し合って架空の秘密にどきどきしていたいとも思うけど、それでもやっぱり今すぐ飽きたい、そうして早く次の、次にわたしが好きになるべき人を見つけにゆくのだ。



「一緒にいてくれそうなら誰でもいいんでしょう」という、わたしの自称親友・あかりの指摘は間違っている、彼女はわたしのことをわかっているようでわかっていない。「わたしが一緒にいたいと思った人で、わたしと一緒にいてくれる人ならだれでもいい、の間違いだよ」って指摘したわたしにあかりは「全然間違ってないじゃん」と言う、それもそうか、間違っていないか、とわたしも思う。
 くしゃくしゃに縮めたストローの袋が水滴を吸ってうねうね動くようにわたしの触手は伸びる、でもそれはあくまでも、水分がある方向にしか伸びないのだ。



 三箇日くんは同級生のわたしから見ても感じのよい青年だった、授業態度も申し分なく、大学1年生にありがちなちゃらちゃらした感じもなかった。後藤くんに恋に落ちている最中から、あ、次はこの人を好きになるな、と分かっていた。そしてその予想通り、後藤くんに飽きたあと、なんとなくのなりゆきで三箇日くんと二人でご飯を食べに行ったわたしは、彼のことを好きになった。
 教室で顔を合わせる彼の、知らない面をどんどん知った。ご飯を食べる数時間、たったそれだけでクラスメイトの仮面がはがれた。わたしは三箇日くんをどんどん好きになり、そして彼の声音や助詞の使い方、語尾の伸ばし方や相槌の打ち方に、どんどん違和感を感じる。

 三箇日くんに恋をしていられるのは、次に彼と2人で会うまでのあとわずかな期間だとわたしはもう気付いている。例え三箇日くんに飽きたくないと願って、そうして彼と2人で会うのを避けたとしても、恐らくひとつきあればわたしは、三箇日くんに飽きるのではなく、三箇日くんを忘れる。それはとても寂しいことだから、最後に彼と抱き合って、そうしてきちんと彼に飽きたい、それが三箇日くんへのわたしの誠意だ。