十三

 新宿三丁目に向かう車内に流れた『次は三越前』というアナウンスで、わたしたち乗客は丸の内線と銀座線の融合が本格的に始まったことを知る。
 例え東京に住んでいたとしてもこの路線をよく利用していなければわからない程度の、地球規模で見ると本当に小さなこの変化はしかし、どうでもいいと断じるには大きすぎる程度の変化だ。手帳の巻末についている東京都心部地下路線図はゆるやかに使い物にならなくなる、2015年度の手帳を書ったばかりなのにとわたしは憂う。
 祝日の変更、消費税の増税、地下鉄の融合。実際の煩わしさよりもむしろ、通販のカートシステムやカレンダーの印刷、そういう莫大な作業を思い浮かべてすこしうんざりする。

 さて、新宿三丁目へ向かうはずだったこの電車がどこへゆくのか、今ではわたしたち乗客はもちろん、車掌さんにだってわからない。地下鉄の融合とはそういうものだ。それを人が死なない天災としてすんなり受け止め、わたしたちは今日の予定を正確にこなすことを諦める。
 少し前まではほんの少しの遅延にも激怒し駅員に詰め寄るおじさまを見かけることがあったが、今ではみんな予定が狂うのに慣れてしまった。地震や噴火や大雨と違い人が死ぬことはほとんどないこの天災は、ただそこに発生するだけで、そしてわたしたちは等しく慎ましく、それが通り過ぎるのを待つ。
 銀座線と融合した丸ノ内線は既に新たな線路を見つけて突き進むから、三越前の次にどこにいくのかはもう誰にもわからない。次で降りたら見知った場所に引き返せるけどそれでは全くつまらない、つまらないから、わたしは今日も終点まで降り過ごすことを決める。
 辿り着いた終点からうまいこと振替輸送のバスがわたしの家まででていればいいのに、そうしたらわたしはまっすぐ家に帰って今日こそきっと、家で待っている君の目を見て、君のことがすきだよって告白をするのに。